独立系M&A専門会社、監査法人系公認会計士事務所を経て現在に至る。主に後継者難の企業に対するM&Aコンサルティング、M&Aによる企業再建コンサルティング、ベンチャー企業の新興市場への公開支援業務、企業価値評価業務の実績を多く手掛ける。事業承継目的や事業効率見直しに掛かる企業組織再編案件の実績多数。 著書に『会社を息子に継がせるな』(幻冬舎出版)など。
島野:畠さんとは2007年に初めてお会いして、そこから仕事上でもプライベートでもお付き合いが始まりました。
畠:知り合った当時、すごいなと思ったのが島野社長の時間の使い方です。私はもともと朝5時に起きるのですが、その時間帯に電話したところ島野社長は当たり前のように出てくれて、スマホ越しに現場の音が聴こえました(笑)。
島野:そんなこともあって意気投合しましたね(笑)。畠さんは笑い話で相手の懐に入って、そこから真剣に経営の話をしたりというような、相手の温度に合わせて伝える力があって、いつも学ばせてもらっています。今日は改めて畠さんの仕事にかける思いをお聞きしたいと思います。
畠:コンサルタントというと、一般的には自分が得た学問上のノウハウをクライアントに提供することが仕事になります。ただ私自身は、理論だけ語るのではなく、現場に入っていくことを大切にしています。
企業支援のあり方は「ニワトリ型」「ブタ型」にたとえられることがあります。ある寓話で、空腹で倒れそうな旅人を救うとき、ニワトリは卵を生んで渡します。自分の身は傷みません。これに対してブタは自分の身を削って提供します。私にとってはブタ型の支援が理想ですね。
島野:畠さんの「一歩踏み込む」という姿勢は、当社が県外の同業者とのM&Aを支援してもらう中でリアルに体感しました。私の思い、そして相手先企業の代表者の思いを汲んで、事前に私が社員一人ひとりと話す機会を設けてくれました。こんなことは通常のM&Aではイレギュラーでしょう?
畠:後にも先にも島野社長にしかやらないと思います。
島野:正直、「とにかく成立させて手数料がもらえればいい」というような意識の仲介企業も少なくありません。しかし経営者としては、M&Aの成立ではなく、その先にどれだけ成長できるか、どれだけ地域や人の役に立てるかが大事です。その点、畠さんが実践してくれたのは、企業と企業だけでなく人と人の思いを結びつけるM&A。感動しました。そういうかたちができれば、数字は自然についてきます。
畠:M&Aというと、海外の事例を見ていると「敵対的買収」「会社の乗っ取り」といったネガティブなイメージがつきまといがちです。しかし日本国内では、自社にない経営資源を持つ会社と手を組む、後継者不在の企業の円滑な事業承継を実現するなど、売り手と買い手がWin-Winの関係を結ぶ友好的なM&Aが多いんです。
島野:畠さんはこれまでにどれくらいのM&Aや事業承継を手掛けてきたのですか。
畠:スターシップグループとしては10,000件以上の経営者後継者の方と向き合って、200件以上のM&Aの実績があります。お手伝いさせていただいた島野電機商会さんのM&Aは、成功事例のひとつです。
隣県の市場を見据えて事業拡大をめざす際は、新規に出店するより社歴や実績がある会社を引き継いだほうが戦略的にも期間的にも効果が早いというのがM&Aのセオリーとしてありますが、私が両社をマッチングした大きな理由のひとつは、島野社長の人心掌握術に魅かれたということがあります。杓子定規な経営理念なら誰でも語れますが、本当の意味で社員のキモをつかむのは難しい。島野社長ならそれができると思いました。実際、初日から社員の心をわしづかみみにしていましたから(笑)。
畠:人心掌握術ということでいつも感じているのが、島野社長と社員さんの絶妙な距離感です。社歴の長い方は島野社長に「なあ、浩司」と話しかけている。しかもそこに親しみや尊敬が込められていて、お互いに心地いい間合いを意識しているんだろうなと想像しています。
島野:私は技術がありませんから、社員のおかげで給料をもらえているという感覚です。ただし技術がない分、人に頼む能力、人を集める能力、人のベクトルを合わせる能力は鍛えられていますね。
畠:経営者の年齢が上がっていき、60歳台を過ぎたあたりから会社の成長率は減少します。現状維持に陥り、従業員のモチベーションが下がってしまうんです。島野電機商会さんの場合は、若くして社長が事業承継されたことが大きな強みになっています。もちろん、2代目ということで苦労された部分もあったと思いますが。
島野:私が社長に就任して間もなくリーマンショックが起きました。まさに辛酸をなめたのですが、どん底から力を合わせてやり直そうと全員のベクトルが一致する転機にもなりました。
畠:危機を乗り越えたことで経営者として認められたのでしょうね。
島野:表面的なことじゃなく、辛い体験を共有した者同士だから語り合える部分があります。私は自分の時間をどれだけ社員のために提供できるかを常に考えています。言葉ではだめで、一緒に汗をかくこと。しかも苦しいときこそ。今はそれが自分の中の当たり前になっていて、ライフスタイルになっています。
島野:新型コロナの影響もあり、経営者としては時代の潮流をいち早く見極めることがこれまで以上に重要になっています。会計業界に変化はありますか?
畠:コロナ以前からですが、これまで人間が手作業でやっていたことがクラウド会計やAI監査に置き換わるなど、デジタルトランスフォーメーションが進んでいます。私はそれでいいと思うんです。そして人間はより付加価値を生む業務に専念すべき。伝票とにらめっこするのではなく、クライアントと向き合って話すという、専門職として本質的な力が求められます。
島野:畠さん自身が今後チャレンジしていきたいことは?
畠:ブタ型の支援の一環として、自分自身が再建が必要な企業の内側に入っていき、再建の実務を担うケースを増やしていこうと考えています。誰かに任すんだったら、自分が責任をもって、自分の身を削って支援しよう、という気持ちです。他には農業など第一次産業の販路拡大や六次産業化で家業から企業への成長を後押しする、といったことにも注力していきたいですね。島野社長はいかがですか。
島野:電気工事は現場ありき。管理面はデジタル化できますが、知識やスキルはこれまでと変わりなく、現場で経験を積んで身につけていくしかありません。私個人の働き方に対する価値観も変わりません。毎日、自分が笑いたいし、社員を笑わせたい。ただし、笑って本気で仕事をすることと、うわついた気持ちで仕事をすることとを、はき違えないように。
畠:外部環境の変化により、これまでダイエットに無頓着だった経済全体が、ぜい肉をそぎ落としてビルドアップして生まれ変わる時を迎えています。その時には、島野社長がおっしゃるように個人がどうスキルアップしていくか、会社がどう少数精鋭化していくかが重要になりますね。